無力感に苛まれ、このままいけば、立ち上がれなくなるかもと察知するとき、人生のある地点からわたしには、心がけていることがあります。それは、目の前のほんの細やかな成功体験を積み上げること。ご無沙汰している人に葉書を書くとか。電力会社に電話して、電気代がお得な新しいプランについての説明を受けるとか。面倒くさくて、つい先送りにしていた細々なことを、細やかな行動で達成する。たった、それだけのことでも、この厄介な無力感が解消されて軌道修正されることが確かにあるからです。
The Public「図書館の奇跡」は「行動」が希望に結びつく映画だと思います。これは、ある公共図書館の元副理事が、ロサンゼルス・タイムズに寄稿したエッセイに着想を得、主演の俳優が完成までに11年かけて製作・脚本から監督まで務めたという作品です。舞台は、米オハイオ州シンシナティ。記録的大寒波で、行き場を失ったホームレスとともに図書館員が図書館に立てこもり、それが大騒動に発展するというお話。約70人のホームレスと図書館員が、生きるために声を上げた、それは「忘れられない夜」となりました。
2018年、アメリカの作品ですが、今年は緊急事態宣言で図書館が閉鎖され、日本でもホームレスの人たちが居場所をなくしています。「神は人に声を与えた」「今こそそれを使うときだ」とは、 映画の中で引用された 「怒りの葡萄(スタインベック)」の一節ですが、折からのパンデミックに加えて、経済危機や、任期途中の首相の辞任など政治的混乱が避けられないいまも、割を食うのはいつだって社会的に不利な人たちです。映画は「知を力に変えて、今こそ、声を上げろ」と、コミカルに訴えかけている気がします。