「マナーです。マスクを着用してください」と書かれた大きな張り紙に、 夫とわたしの視線がとまったのは、四国霊場のあるお寺でした。お遍路さんでにぎわう秋晴れの昨日、二人で訪れた境内で納経所の入り口に差し掛かった時のこと。けっこう「上から」なこの表現に、宗派が違うとはいえ、お寺の娘であるわたしは、不意に身内の恥に出くわしてしまったようで、決まりの悪さを禁じ得ませんでした。古来、人々の信仰を集めた「お四国霊場」でさえそうなのですね。
海外駐在員のわたしの長女は、 周囲の日本人が一斉に帰国した今年の3~4月頃、本人も日本に帰るかどうか迷った時期がありました。そのとき、わたしが「帰ってくるな」といったこともあり、彼女はそのまま留まり日本には今のところ帰らずじまい。あのとき、見送った日本人を今度は現地で迎えているといいます。一時帰国を終え、戻ってきた日本人から聞く日本の実情はいずれも予想外だにしなかったことばかりで、現地とのギャップに違和感を覚えずにいられない様子です。
コロナを巡る差別やいやがらせに、海外帰国組の彼らは「とても外を堂々と歩ける感じじゃないから、2人とも実家で半年間引きこもってたらしい」といいます。あまり、この言葉を使いたくはないけれど、こういった状況のことを戦争というのではないでしょうか。平時だとはいえない今、わたしたちは、ある意味、共通の敵であるコロナに対峙していて、早々に捕虜になって(早々に感染してしまって)一緒に戦えない、または戦わないヤツは非国民だとみなされてしまう。これらのできごとは、戦争とは、ひどく身近なもので、わたしたちは常在戦場だということを、思い出させてくれたに過ぎないのかもしれません。