わたしが自治体職員だった頃、広報誌の取材で聞いた戦争未亡人の話をふと思い出しました。そのとき印象に残ったエピソードのひとつに「周囲はみんな戦争未亡人ばかりだったから、その意味では辛くなかった」という体験談があります。2000年代の初頭、当時すでに八十歳代とおぼしき女性の言葉でした。
彼女は言いました。「残されたのは女子どもで、等しく貧しく、同じように苦労したからわかりあえたし、だからこそ、みんなで乗り越えることができた」と。以来、この国は「戦争の惨禍」こそ繰り返してはいないものの、自然災害の惨禍、それも、災害発生後の人災としての惨禍なら、何度繰り返してきたことでしょう。
そして今、被災地では、災害弱者という名の取り残された人々が増え続けています。経済的な格差ばかりか情報の格差、つながりの格差など、年々格差がひろがっていく中、いつの間にか忘れられ、世間の視界から消えていく人たち。その一方で、多くの人にとって同じ目にあうまで他人事なのが、戦争未亡人の時代よりもっと危うい気がします。